JENSEN ACKLESのお誕生日企画としてスタートしたこのお話、半月かかって、やっと、最終章をアップすることができました。
そして今回も、キョウさん(KK journal)作の挿絵兄弟が、本当に魅力的!キョウさんが、二人の間に通い合う心とその絆を、見事に描き出してくださっているので、私が描きたかったのに書ききれなかった二人の関係を、よりリアルに感じ取っていただけると思います。
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SAMが初めて好きになった女の子を、待たせたりしたらマズイ…。だって本来なら、今朝二人は、初めてのデートするはずだったのだから…。
微笑みを投げかけてくる魅力的な女の子達も、素晴らしい香りで誘うコーヒー・ベンダーも、今日のDEANを引き止めることはできなかった。朝の光はすでに柔らかな春の気配を含んでいるけれど、風にはまだ肌を刺す冷たさがある。なのにDEANは額に汗を滲ませて、ひたすら走り続けた。
DEANは、すぐさまそのうしろ姿に呼びかけようとした。だが、息が切れて声が出ない。それに……ああ、彼女の名前がわからない…。急いで飛び出したせいで、SAMMYに聞くのを忘れちまった! なんてこった…!
「…き、君……?…、この間……会ったよね……? え~と…サンディ、サンディ…だったよね、君の名前…?」
サンディはその頬をあの時以上に鮮やかなピンク色に染め、困惑しながらも、突然に現れたDEANから目を離すことができなかった。
…SAMが来るはずだったのに…。SAMが、お兄さんを連れて来てくれるはずだったのに…。なのにどうして、彼が一人で私の前に現れたの? SAMったら…。 もしかして、私の気持ちを彼に話しちゃったの…? ううん、まさかね…。でも、じゃあ、どうして……?
「ごめんな。SAMを待ってたんだろ? じつは、あいつ……」
DEANは悪戯をごまかす子供のようにアタマを掻き、眉を片方だけ吊り上げてみせてから、戸惑ってフリーズしてしまったサンディに謝った。それから深呼吸をひとつすると、一気に喋り始めた。
「…SAMMYのヤツ、今朝になって熱だしたんだ。君にチョコレートクッキーを貰ったのが、嬉しすぎたらしい…。…あいつ、図体はデカイけど、まだガキ。しかも、堅物で大真面目だろ? ったく、だらしねえのなんのって……。あ、ごめん…。俺、君のボーイフレンドにケチつける気なんかないぜ。兄貴の俺が言うのもなんだが、アイツは本当にいい子だ。アタマいいし、気持ちがやさしい。それに、悔しいけど俺より少し脚が長いんだ…。ムカつくよな…。ま、ちょいと神経質ですぐにフテ腐るし、案外気が弱いんだけど、欠点といえばそれくらいかな…。君はホントに目が高いよ、SAMを選ぶなんて……」
サンディはますます困惑した。 一体、何て答えたらいいの? 私が選んだのは、その、いい子のSAMじゃなくて……。
「…アイツは絶対に君のことが好きだ。これを伝えたくて、俺、ここに来たんだ。SAMは、君を好きすぎてぶっ倒れた……」
サンディの困惑に気がつきつつも、その本当の理由を知らないDEANは、早口でまくしたてた。そして、一体何人の女の子のハートを瞬時にとろけさせたのか、彼自身さえも知らないあの罪作りな笑顔を見せて、さらにサンディに近寄った。
「…それじゃあSAMは、今日は来ないの…?」
DEANとの距離は、わずか50センチ…。やっとの思いで持ちこたえ、必死で口を開いたサンディは、喉の奥から少しかすれた声を絞り出して、そのあと目を伏せた。
「ああ。だから俺が来た。SAMのかわり。…ホント、ホントにゴメン…」
「……」
「でも、SAMは君のことが好きだ。絶対! 俺が保証する。だから、だから…、がっかりしないで…!」
「……」
「…あ、そうだ。俺、君を学校まで送っていくよ。SAMのかわり。俺じゃあ不足かもしれないけど、今日だけは我慢してくれよな。明日から必ず、SAMMYが来る…」
DEANは、サンディの目を覗き込んで微笑むと、大またで歩き出した。サンディは、一瞬躊躇した。けれど、振り返って促すように見つめるDEANの瞳にひきつけられて、一緒に歩みだした。
私、確かに、SAMが来なかったことにがっかりしている。けれどもその理由は、あなたが思っているようなことじゃない…。
いつもの、通いなれた道。けれども今日は、特別な道…。本当は、明日も明後日もそのあともずっと、この道をこうして二人で歩きたい…。 サンディは黙ってDEANに寄り添い、歩いた。

どうしたらいい? 俺が何か、ヘマをやっちまったんだろうか? 何か、彼女の気にさわることを言っちまった? SAMの気持は、ちゃんと伝えたつもりだ。でも、伝わってない? 誤解されてたら? ああ、SAMの大事な大事なチャンスを、もし俺がぶっ壊してたら…???
なあ神様、頼む。弟の大事なチャンスを、壊さないでくれよ! 天使がいるなら、サンディに伝えてくれ。SAMは本当に、この子のことが好きなんだ。あいつの様子を見てたらわかる…。
普段は「神様なんていやしねえ!」とうそぶいているDEANも、今この時ばかりは、心の中でただひたすら祈った。
…神様、SAMを、傷つけないでくれよな…。せっかくの、初恋…。
気がつくと、学校はもう目の前…。サンディは突然立ち止まり、DEANの目の前に立って顔をあげた。
「DEAN、きっとあなたは覚えてないと思う。だけど、あなたはここに立ってたの。霧みたいな雨が降ってた日。SAMが転校してきて、まだ一ヶ月もたたないころ…。そしてあなた、私に笑いかけてくれた…。だから……」
意を決して思いを伝えようとしたのだが、サンディの瞳にはみるみるうちに涙が溢れた。そして、あっけにとられているDEANを残し、彼女はそのまま校門の中に走りこんだ。
「サ、サンディ…待って……」
DEANの声がすぐさま追いかけてきたが、サンディは振り返らなかった。
しばらくの間、DEANはぼんやりとその場に立っていた。
なんなんだ、これは? 一体、どういうことなんだ…? サンディは、俺に…?
正直に言えば、公園の入り口で目と目が合ったその瞬間に、DEANはその心の奥深くで、自分に対するサンディの思いを感じ取っていた。けれども、これは単なる勘違いだと自分自身に言い聞かせて、懸命にSAMの思いを伝えた。もしもサンディが自分に好意を持っていたとしても、彼女のハートにSAMの真摯な思いが届いたなら、きっとそんなことなんかどうでも良くなる…。お願いだから、そうなってくれ…。DEANは、心底そう願っていた。でも、失敗した…。
SAMに、どう伝えればいい? 俺のせいで、あいつを傷つけることになるなんて…。
DEANは踵を返し、今来た道を再び走って戻った。 今日は、試験がまだ2教科残っている。でも、もういい。試験を受けないくらいで、死にやしない…。でもSAMは…。

家の前にたどり着いたDEANは、その耳で異変を感じ取った。家から、'ZEPPELIN'が漏れている。 外に漏れ出すほどの音でZEPPELINを聴くヤツなんて、俺だけなはずなのに…。
そして、ドアを開けてぶっ飛んだ。壁がゆれるほどの 『DANCING DAYS 』 。SAMMYが、床を踏み鳴らして踊っている…!!!
「な、なんだぁ!? SAMMY、お前、どうしたんだぁ?!」
DEANは慌ててデッキのボリュームを下げると、SAMの目の前にたちはだかった。
「SAM、SAMMY、おい、返事しろよ! どうしたんだ? 気持悪いんじゃなかったのか?」
「…なおった…」
「大丈夫かよ…」
「兄ちゃんの顔見たら、また吐きそうになってきた」
「……?」
「それにさあ、僕がせっかく聴いてる音楽のボリューム、下げないでくれるかなあ?」
踊るのをやめ、SAMはいきなりつっかかってきた。
「だってお前、これ…。近所中に響き渡ってる…」
「ほっといてよ。兄ちゃんなんか、いっつも、もっとうるさくしてるじゃないか!」
ただごとではない気配を感じ取ったDEANは、困惑した顔でSAMを見つめながら、黙ってソファに腰をおろした。するとSAMは、再びデッキのボリュームをめいっぱい上げた。
スピーカーからは、『D'YER MAK'ER』の屈託のない音が飛び出してきた。SAMは、そのレゲエふうのリズムに合わせて足を踏み鳴らし、また踊りだした。そしてわざわざ、おとなしく座っているDEANの目の前に立つと、上から挑発するように睨みつけた。
「なんだよ、その目。俺が何かしたか? 今だって、お前のことが心配で、急いで帰ってきたのに……!」
しかしDEANは、その挑発には乗らなかった。SAMをすんでのところで交わして立ち上がると、テープのボリュームを下げながら言った。
「あ、そうだ。サンディがよろしく、って…。心配してたぞ、お前のこと…」
「…兄ちゃん、嘘つくなよ…!」
逆効果だった…。
「…う、嘘じゃない…」
「じゃあ、なんなんだよぉ! 僕、僕はちゃんと知ってるんだぞ! サンディが兄ちゃんのことスキだって…」
「そ、そんなこと、俺は知らな……」
DEANの言葉を最後まで聞くことなく、SAMはいきなりDEANにつかみかかった。ぼろぼろ涙をこぼし、DEANのシャツの襟元を掴んで激しくゆさぶりながら、SAMは泣きじゃくり始めた。
一瞬のうちにSAMの気持を察したDEANは、何も言わず、何もせず、ただそこにいた。SAMに揺さぶられながら、SAMの激情に、その激情が嵐のようにが吹き荒れるのに、身をまかせていた…。 SAM自身だって、この荒れ狂う気持を、どうすることもできないのだ…。
「…兄ちゃん、ごめん…。兄ちゃんのせいじゃない…わかってる…」
「……」
SAMは、涙でくしゅくしゅになった顔をおそるおそる上げてDEANを見た。DEANは、静かに微笑んでいた。
「…いいんだ…。少しは気が晴れたか?」
「…ますますヤな気分。自己嫌悪…」
「…そうか…。でもお前、どうしてサンディが俺のことを好いてるなんて思い込んだんだ?」
「思い込みじゃない…」
SAMは、ジーンズのポケットからくしゃくしゃになったあのカードを取り出し、DEANに手渡した。
「…読んで。最後まで…」
カードを読んで、DEANは初めてすべての事情を理解した。SAMがあんなにもムキになってこのカードをとり返そうとした理由。サンディの不可解な反応。そして、SAMのこの大嵐…。
「SAM、お前、男だろ? なら、そんなことで泣くな。そして、いまからすぐに、学校に行くんだ!」
「だって、兄ちゃん…」
「だってもクソもあるか! 行ってサンディに言うんだ。君が好きだ、って。あの、アホでオンナたらしの兄ちゃんは、誰にだって笑いかける。さっきだって、女の子連れて家に帰って来た、って…」
「…でも…」
「なあ、SAMMY、やってみるんだ。俺は、サンディと付き合う気なんかない。いい子だけど、あの子はお前のガールフレンドだ!」
「…兄ちゃん、それ、ホント?」
「ああ、ホントだ。お前、俺がサンディのこと、盗っちゃうと思ってたのか?」
SAMは、こくんと頷いた。
「お前って、俺のこと全くわかってねえな…。確かに俺は、ある意味不真面目だ。一人の女の子と長く続いた例がない。でもなぁ、弟の好きな子に手を出すほど無節操じゃねえぞ。俺が一人と長く続かないのは、ひとところに長くいられない生活環境せいで、物理的事情ってヤツだ。時々俺に仕事の手伝いをさせる、父ちゃんの責任ともいえるな。俺だって、ホントは……」
DEANは、次の言葉を呑みこんだ。そして、SAMの頬から両手を離した。
SAMはその時初めて、ほんの少しだけ、兄の心の深みを覗いた。

手の甲で涙の跡をぬぐうと、SAMは立ち上がった。













