いつもの通り、キョウさんが、抱きしめたくなるほどカワイイ兄弟の挿絵を描いてくださいました。というか、キョウさんにインスパイアされて、このお話が書けた、と言ったほうが正解だとおもいます。今回もコラボができて、本当に嬉しいです。アメリカに、日本同様の母の日があるのかどうかはわかりません。けれど、私は、この季節のなると、ある同級生のことを思い出します。
母の日が近くなると、その子はいつも、憂鬱な顔をしていました。普通の人が普通の幸せを普通にお祝いする日。それは、その普通の幸せを持っていない者達にとっては、逆に、自分達の境遇の悲しさを思い知る日になってしまう…。 思い出すと、胸が締め付けられます。
なので、せめてこのWINCHESTER兄弟には、救いになる人物が現れてほしい。そして、二人が、ママがいなくても、幸せでありますように…、と、SAMの誕生日をお祝いすると同時に、そんな気持をこめて、お話を書きました。この想いは、挿絵を描いてくださったキョウさんも同じ…。
皆さんに愉しんでいただけたら幸いです。
なお、文中、”少しオタクな部分”がありますので、その引用や音楽には、リンクを貼りました。ブログでお話を書くと、こういうふうに「Trivia注」を入れられるところが面白いですよね。おヒマな方は、ぜひここもクリックして、お話の中のDEANの趣味を、共に楽しんであげてください。今回は、JENSENとJAREDの出演作を使った小ネタも入れてあります…。
追記:毎回この思い込みFanficにお付き合いくださり、愛らしすぎて涙がでてしまう兄弟を描いてくださるキョウさんが、今回初めて、読んで下さる皆様へのコメントをよせてくださいました。
「こんにちは。初めてご挨拶いたします。ブログKK jouralのキョウと申します。
不思議なご縁があって、毎回maxyさんのこのページでコラボさせて頂いてます。
maxyさんはああ仰っていますが、彼女の豊かな発想にインスパイアされているのは、実は私の方なのです。(これで誤解を解いていただけましたでしょうか?)
maxyさん、いつも素敵なStoryをありがとうございます。
今回は、子供時代の兄弟を幸せにしてあげたい、というのがテーマでした。
あまりにも普通すぎて気付かないような、ほんの僅かな幸せが、この子達にとっては”かけがえのない思い出”になってるかも知れませんよね。成長した今でもなお…。どうか一日でも早く、それを幸せと思う必要がない日々がWinchester Boysに訪れますように。私の想いも、maxyさんと同じです。
挿絵も併せて楽しんで頂ければ、幸いです」
MOTHER'S DAY
ラナは、学校中のすべての生徒の憧れの的だった。
ゆるやかにカールしたブルーネットの髪にオリーブグリーンの瞳。小柄だがすらりとして、小鹿のように繊細で快活。しかも、文句つけようのない美女だ。そのうえ、決してそれを鼻にかけることなどなく、誰にでも親切で優しい。
なのに彼女は「氷のプリンセス」と呼ばれていた。誰がデートに誘っても決して首をたてに振らないからだ。なんと彼女は、7年生のプロムデビューの時でさえ、誰のエスコートもなくたった一人でやってきた。その時は、学校一の人気者でバスケットチームのエースであり生徒会長でもあったトムが、ひざまづいて懇願したというのに…。それでも彼女は、呆れるほどあっさりとその誘いを断った。
こともあろうにその彼女が、転校してきて一週間足らずの男の子の誘いに、いとも簡単に応じた。しかもその男の子は、1歳年下。小さなジュニアハイスクールは、騒然となった。
男の子の名前は、DEAN。父親の仕事の関係で、国中を転々としているのだという。
初登校の日、彼は、ところどころに綻びのあるリーバイス502に、今の時代には全く流行らないクラシック・ロックのバンド、AC/DCの黒のTシャツを着て学校にあらわれた。傷だらけのウォークマンを片時も手ばなさず、いつも音楽を聴いていたが、かすかに漏れ出て来るその音から察するに、それは、善良な市民達からは「雑音」と呼ばれている類いの音楽だった。
DEANは、一筋縄ではいきそうにないワルっぽい雰囲気と、きわめて端正な容姿をあわせ持った少年だった。ブラウンの髪を短かく刈り込み、はしばみ色の瞳は、8年生、14歳という年齢の割に、大人びている。しかも時にそれは、ほんの一瞬だが、相手の心をその底まで見透かすかのように鋭く光った。
女の子達は、そんな転校生の出現に、いろめきたった。
なぜなら、重装備の野暮なスニーカーではなく、黒いハイカットのコンバースを履いた彼には、田舎町から出たことのない善良な男の子達とは違う、危険だけれど自由でわくわくする匂いがあった。
「転校生よね? どこから来たの?」
廊下ですれ違い、最初に声をかけたのは、なんと彼女のほうだった。
DEANは、一瞬声を失って目を見開いた。この田舎町には全くそぐわないパーフェクトな美女が、まっすぐに自分を見つめている。
「…あ、うん。ああ…、そう、転校してきた。出身はカンザスだ」
「いつ来たの?」
「一週間前。あ、俺、DEAN…。DEAN WINCHESTER…。よろしく。君は…?」
一呼吸遅れて返事をしてから、DEANは、握手の手を差し出して彼女の名前を尋ねた。
「私は、ラナ」
彼女は、思いがけない強さで、DEANの手を握り返した。
「素敵な名前だね。 『SMALLVILLE』 のヒロインと同じ名前だなんて、麗しき君にはピッタリだ! ところで、君は、7年生? 僕は8年だけど…」
「あなたこそ、 『GILMORE GIRLS』 のヒロインの恋人と同じ名前だわね。ところで、私は9年生よ。つまり、あなたよりお姉さん」
「あ、ごめん。まさか、年上だなんて思わなくて。だって、その、君って、小柄だったしものすごくチャーミングで…」
「年上でがっかりした?」
「いや、そんなことない。絶対にない。転校してきた早々、こんなに素敵な女の子から声かけられるなんて、嘘みたいだ! 俺って、ツイてるよね。…それとも、一生分のツキを、この一瞬で使い切っちゃったかなぁ…」
「あなたって、正直で面白いコね」
「そう? それじゃあ、面白ついでに…。俺のツキがまだ残ってるかどうか試すの、手伝ってくれる?」
「いいわよ。どうするの?」
「うん。イエスかノーか、即決で答えて! じゃ、質問。今日の放課後、俺と一緒に帰らない?」
「イエス。いいわ」
「やった! 俺、まだツキが残ってるらしい!俺がどんくらいラッキーなヤツか、これで証明されたね!…それじゃあ、放課後は…」
DEANが次の言葉を言いかけたところで、授業開始のベルが鳴った。
「いっけねぇ、急がないと。次の授業は、向こう側の校舎の教室なんだ。じゃあ、放課後、3時半に正門の前で。いい?」
「いいわ」
「そんじゃぁ!」
DEANは得意のウィンクを残して、「走るな!」と貼り紙がしてある廊下を、慌てて走り去った。ラナは、微笑みながらその後姿を見送った。
ここまでの経過を一部始終を見ていた同級生達は、みな、あっけにとられていた。難攻不落の「氷のプリンセス」が、これほどあっさりとろけてしまうなんて! しかも、プリンセスをとろかした相手は、由緒正しき家柄の王子様などではなく、素性も知れない転校生。そのうえこともあろうに、一学年下…。
プリンセスは、出会いがしらのその一瞬で、すでに解けていたのだ。何ものにも臆さず背伸びもせず、けれど少し生意気で図々しく、どこか得体の知れない何かがある少年DEANに、いままでどの男の子にも感じたことのない、好感と関心と親近感を感じていた。
ウワサは即座に、学校中を駆け巡った。そして、すべての男の子を嫉妬させ、すべての女の子を落胆させた。

放課後、先に正門についたのはDEANのほうだった。彼女は、約束の時間より、5分ほど遅れてやって来た。
「ごめんなさい!待たせちゃったわね…」
「いいってこと! ナイトはいつも、プリンセスに従うもんだろ? それが、シゴト。ね、氷のプリンセス!」
「誰に聞いたの?」
「クラスのみんなに言われた。氷のプリンセスのデートは、もう、学校中でニュースになってるって。俺、一瞬にして、有名人。でも、9年生の男子達に殺されるぞ、っても言われた」
「あほらしい…」
「そう? へえ、君の口から、そんな言葉が出てくるとは思わなかったな」
「残念だったわね。私、口が悪いの。みんなはあんまり気がついてないけど。ところで、君なんて呼ばないでよ。ラナでいいわ」
「うん。じゃあ、ラナ、どうして、俺とデートしてくれる気になったの?」
「これって、デートなの? 一緒に帰るだけでしょ?」
「まあ、そうとも言える…。じゃあ、どうして一緒に帰ってくれる気になったの?」
「…そうねえ……、あら?…」
DEANの質問に答えようとしたラナが、突然立ち止まった。そして次の瞬間、ちょうど車の流れが途切れた大通りに飛び出し、走って通りを横ぎった。
「どうしたの?」
DEANは、慌ててそのあとを追いかけながら、尋ねた。
「あのコ、ほら、そこのベンチにうずくまってるコ。様子が変よ。どうしたのかしら?」
通りを渡り終えたラナが指差すベンチを目にするやいなや、DEANは声をあげて走り出した。
「SAM! SAMMY!」
今度はラナが、驚きながらDEANのあとを追った。
歩道のベンチにうずくまっていたのは、紺色とサックスブルーの横縞のラガーシャツを着たSAMだった。DEANと一緒にこの町にやって来た、彼の弟。エレメンタリースクールの5年生で、頭はずば抜けて良く、勉強はできるのだが、人見知りで少し気難しい。なのでDEANは転校するたびに、弟が新しい学校にうまく馴染めるかどうか、そればかりが心配でしかたなかった。
DEANは、ベンチの上でうなだれて膝を抱えているSAMに駆け寄り、肩に手をかけた。
「どうした?、SAMMY、学校で何があった? 具合悪いのか?」
ラガーシャツが、ところどころ破れている。肩や胸や袖のあたり。朝出て行った時には、そんなことなかったのに。
聞き慣れた声に顔を上げたその頬は、すでに涙でぐちゅぐちゅになっていた。そして、突然現れた兄の心配そうな顔を目にするやいなや、SAMは声をあげて泣きじゃくりゃくり始めた。
「ど、どうした、SAMMY、どうしたんだ?」
「…ボ…ク、…ボク…マザーズデーなんか、…き、…きらいだもん…だぃぃぃぃぃっきらぁぁぁぁいだぁ!!!!」
「何があったんだ、SAMMY?」
…そうか、マザーズデーか…。そうだった…。また、嫌なイベントがやってくる…。俺達みたいにママのいない子供達が、ものすご~く悲しく惨めな気分になる最悪の日…。
「…隣の席のコが…、…ボクのこと、ママなし子って!…ずっと言うんだ。…ボク、ちゃんとガ、ガマンしたんだよ…。…でも……だから、だからね……でも…」
「喧嘩したのか?」
「…飛びかかちゃったの…ボクが…。…やめて、って…頼んだ…のに…、ずっと…、ずっと言うから…」
SAMの頬は赤く腫れていて、かすり傷だらけだ。捲り上げた袖から出ている腕もひっかき傷だらけで、流れた血はすでに乾いて固まっているが、ひどく痛々しい。
「SAM、その、隣の席の野郎は、いまどこにいるんだ? お前、喧嘩なんてしない子なのに…。なのに…、痛かったろう…? 兄ちゃんが仕返ししにいってやる! 許さねえ…」
SAMは、肩を震わせて泣き続けた。
一見痛痛しい身体の傷も、サッカーの練習をしていれば日常茶飯事のかすり傷だ。けれど、ママがいないという境遇を嘲られたSAMの心の痛み…、その見えない傷は深かった。
その時、二人の様子を黙って見守っていたラナが、静かに歩み寄ってDEANの手を握ると、怒りに燃える彼の目をじっと見つめながら、声には出さずに「NO」と言って首を横に振った。そして、それから、まだ泣いているSAMに向かって静かに話しかけた。
SAMはうつむいたまま返事もしない。でも、ラナは気にする様子も見せず、SAMに話し続けた。
「ところで、SAM、SAMだったわよね? あなたがさっきから握り締めているソレは、なあに?」
「良かったら、私に見せてくれない?」
「……カード。…今日、工作の時間に、ママにあげるカードを作ったの…。もうすぐ、マザーズデーだから…。…ボク、ボクは、 とっても上手にできたんだ。先生にも褒められて…なのに……」
SAMの肩の震えが再び大きくなった。
「…ああ、SAM、これ…、何てきれいで素敵なカードなの? ほら、DEAN、見て!」
封筒を受け取ってカードを開いたラナは、感嘆の声をあげた。そして、DEANの手にそのカードを渡すと、SAMの脇に座って、すすり泣くSAMを優しく抱きしめた。
SAMは、薄いピンク色の厚紙の上に、何枚もの赤い紙を重ねて立体的に作ったカーネーションの花を貼り付け、さらにその花には緑の葉をつけ、茎を描き、茎には赤いギンガムチェック柄のリボンまでつけて、それはそれは可愛らしいカードを作り上げた。ただ、泣いている間中握り締めていたせいで、紙はよれている。カードの余白には、小さく几帳面な字で丁寧に書いた、ママへのメッセージも添えてあった。
ラナは、そのメッセージを読んで胸が詰まった。そして同時にその時、この兄弟の境遇と絆を理解した。 一方DEANは、このカードを見てメッセージを読み、さっきよりさらに怒り狂った。
「一体、どこのどいつだ! SAMMYをいじめるなんて! 許せねえ。絶対ゆるさねえ。 俺が、殴り飛ばしてやる。どこのどいつだ、SAMMY、そいつ、何て名前だ!?」
ラナが再びDEAN制した。
「ねえ、SAMMY、これから私ね、あなたのおうちに行くところだったの。お兄さんに連れて行ってもらうことになってたのよ。そうよね、DEAN? 」
「…あ、うん、…そう…うん…?…」
「だからSAMMY、一緒に帰りましょうよ。いいかしら?」
「さあ、SAMMY、おうちへの道案内を頼めるかしら?」
ラナはそっと、SAMの手を握った。
「…でもね、お姉ちゃん、僕達、おうちなんかないんだよ。今も、モーテルに泊まってるんだもの…」
SAM が、まだうつむいたまま抑揚のない鼻声で、つまらなそうに答えた。
「そうなの…? でもSAMMY、いまそこで暮らしてるなら、そこがあなたのおうち。そうじゃない?」
「…うん、たぶん…でも、あそこはおうちじゃない…」
「わかったわ。じゃあ、泊まってるモーテルに案内してくれる?」
「…うん、いいよ。お姉ちゃん…」
「ラナよ」
「わかった、ラナ。大きなショッピングモールに向かって、20分くらい歩くよ…」
「いいわ。私の家も、同じ方向よ」
SAMはラナと手を繋いで、けれどもラナよりも半歩先に出て、道案内を始めた。すすり泣きはおさまり、その顔には少しずつ笑みが戻ってきた。
「…ねえ、ところでひとつ提案があるんだけど、SAM…」
しばらくすると、歩きながらラナが言った。
「今日は、私があなたのママのかわりになるの…。これってどう?」
「………」
「あ、ごめんね。イヤだったらいいのよ。私はあなた達のママのかわりにはなれないものね…。ごめん、突然、変なこと言っちゃって!」
「…イヤじゃない。……いいよ!」
少しのあいだ考えてから、SAMは相変わらずうつむきながらも、弾んだ声で返事をした。そしてそのあと、決心したかのように顔をあげ、微笑むラナと目を合わせた。
ママも、もし生きていたら、ボクにこんなふうに笑いかけてくれるんだろうか…。SAMは、ラナを見つめながらぼんやりと考えた。
SAMのと、ラナのと、自分のと…。3人分の重たい荷物を持ったDEANは、手を繋いで前を行く二人のあとをついて歩きながら、この急展開と、心の中に湧き起こってくる不可思議な気分に驚いていた。しいて言葉にするなら、それは、嬉しさという水が満ちたプールの中で、怒りという塊が少しずつ解けて小さくなっていくような感じ。DEANは、いままで体験したことのない心地よさに安らぎながら、いつの間にか 「RAMBLING MAN」 をハミングしていた。
と、その時、ラナが急に振り返ってDEANに言った。
「SAMのママになるってことは、あなたにとってもママよね、DEAN? だから今日は、私の言いつけちゃんと聞くのよ、いいわね? …まず、SAMの友達への仕返しは許さないわ。絶対にダメ。わかった?!」
DEANもさっきのSAM同様、こっくり頷いた。もう、仕返ししようなんて心は残っていない。
「よし、いいわ! ところで、あなたってホントにヘンな子ね。だって、そんな古臭い歌なんかハミングして…」
「…ん?…古臭いって、じゃあラナ、この曲のこと知ってんの?」
聞こえなかったのかわざとなのか、ラナは、DEANの問いには答えなかった。

モーテルに着くや否や、フロントから救急箱を借りてきたラナは、SAMをベッドに座らせて傷の手当を始めた。擦り傷の手当ては、消毒薬が沁みて痛い。いつも、サッカーの練習中に転んで膝のあたりを擦り剥いたSAMの傷の手当は、DEANの役目だった。SAMはたいてい、痛いのを恐がってだだをこね、逃げ回り、ひとしきり暴れる。 今日のように、じっと黙って我慢しているなんてことは、一度もなかった。「よく我慢できたわね、SAMはすごいわ!」と、ラナに褒めてもらえたのがよほど嬉しかったらしい。
DEANは一人でソファに腰掛け、ポテトチップスを口に放りこみながら、ただただ、そんな二人を見ていた。
もし俺達にママがいたら、ママがいなくても、もし姉ちゃんがいたら、毎日こんな感じなんだろうか…?DEANはふと、幼い日、ママに抱かれた時の、花のような匂いと柔らかな感触を思い出した。
手当てが終わると、ラナはSAMの学校の算数の宿題を手伝い、棚にあったオートミールを作って食べさせた。そして、いろいろな出来事があったせいで疲れてしまったのか、いつの間にかラナにもたれかかってうとうとと居眠りを始めたSAMを、ベッドで寝かしつけてくれた。
「SAMMY、眠ったわね」
「あ、ありがとう、ラナ。でも、ただ一緒に帰るだけのつもりが、こんなことになっちゃって…」
「いいのよ…」
「…聞いていいかなあ? どうして、今日知り合ったばっかりの俺達に、こんなことしてくれんの?」
「ん? う~ん。私も、同じだから…」
「え?」
「私も、ママなしっ子なの。5歳の時、ママが事故で亡くなって…。SAMMYと同じで、ずいぶんいじめられたの…。みんな、けっこう残酷よね。寂しい子供が、余計に寂しくなるようなことを、平気で言うんだもの。やめて、って頼んでるのに。ちいさい頃にママに死なれたってだけで、私、なんにも悪いことしてないのに。なのに、いっつも、お前にはママがいないんだよな、と言われて…。だから、何?、って思ったけど…」
「うん。俺も、やられた。いっつも…。で、俺は、いつも相手に殴りかかった。時々、上級生にボコボコにされたりもしたけどさ。…俺は、4歳の時にママに死なれたんだ。SAMMYはまだ赤ん坊で。6ヶ月だった…」
「事故?」
あのことは、事故としか言いようがない。正確ではないが、他にどう表現できるというのだ?
「だから嫌いなのよ、マザーズデーなんて。誰がこんな日を作ったのかしら? ママがいない子供達が、どんな気持になるのかも知らないで。いい気なもんよ」
「俺も、大嫌い。正直、マザースデーなんて、クソくらえだ!」
「うん。クソくらえ!」
二人は中指をたて、声をそろえて、笑った。
「ところで、さっきはぐらかされた質問…。どうして、氷のプリンセスが、俺なんかの誘いにのってくれたの?」
「…うん…、DEANはどうしてだと思う?」
「…俺がハンサムだから…?な、わけないか…」
「あなたって、ホントうぬぼれやね! まあ、ある意味、事実だけど…」
突然、ラナは真顔になった。
「俺、どんな匂いがすんの?」
「うさんくさいわ。反抗的なアウトロー!」
再びラナの顔に、悪戯な微笑が戻った。
「うん。確かに。俺って、うさんくさいかも…。なのに、ラナはいきなり、そんなヤツのうちにまでやってきた…」
「うちじゃないわ。モーテル…」
「でも、どうして?」
「SAMMYがいたからよ。あの子、昔の私にソックリ。ほっとけなかった…」
「…ありがとう、ほんとに…。SAMMY、やっと落ち着いて…。凄く嬉しそうだったし。……でもさぁ、俺が、ホントにすごくワルで、いきなり…いきなりなんかしたら?」
「あははは! すごんだってダメよ。あなたは、まだカワイイ坊や。すごく変わってるけどね」
「俺、もう坊やじゃないぜ! SAMとは違う!」
「坊や」と呼ばれたとたんに突然いきり立ったDEANを見て、ラナはこっそり吹き出した。そうとも知らずにDEAN坊やは、今度はまるで小学生のような目をしてラナに尋ねた。
「…俺って、そんなに変わってる?」
「DEAN、本気で言ってんの? 冗談でしょ? あなたって、すご~く変わってるわよ。だいたいにしていま時、そんなバンドのTシャツ着てる人なんか、見たことない…」
「そんなバンド…、ってことは…ラナの知ってんの? AC/DC…?」
「うん。じつはね。パパの車に乗ると、必ず聴かされるもん。さっきハミングしてたオールマンブラザースバンドも知ってるわ。どっちも、もう、クソみたいにカッコいいバンドよね!」
「Yeah、その通り! クソみたいにカッコイイ! つまり、ラナだって、すげえ変わってるってことだろ?」
「…そうかもね…」
「なら俺達、似たもの同士だ」
「うん、たぶん。だから言ったでしょ? 同じ匂いがする、って。でも、DEANは羨ましい。SAMがいるもの…」
ラナは、枕を2個とも抱きしめてすやすやと眠っているベッドのSAMMYを、愛おしそうに眺めた。
「私なんかひとりっ子だから…。寂しいよ。パパはしょっちゅう家を開けてるし。時々、無性に泣きたくなるの…」
「…そうだな。俺の父ちゃんも、いっつもいない。でも、俺にはSAMがいるから…。ま、ひどく手がかかるけど…。でも、俺一人じゃ、耐えられないかも…」
見ると、ラナのオリーブ色の瞳には、涙がたまって光っていた。DEANはその時、ラナがなぜ、普通の男の子の誘いに応じないのかを理解した。
この寂しさは、俺達みたいなヤツにしかわかんねえ…。
帰り際、ラナは突然、背伸びをしてDEANの頬にキスをした。
「また、明日ね、DEAN!」
「アッ、あ、ああ、ありがとう…、ラナ…。また明日…。もし、9年生に殺されずに、生きていられたらね!…生きてたら、また、一緒に帰ってくれる?」
ラナの突然のキスは、死ぬほど嬉しくて死ぬほど照れくさかった。でもそれを気取られまいとして、DEANはまたジョークを飛ばした。 ラナには、とっくにお見通しなのに…。
「何言ってんの、まったく…。頑張って、生き延びなさい! 代理ママの命令よ。生き延びられないと、一緒にAC/DC聴けないでしょ! それじゃ、DEAN、また明日!」
「送っていく」、というDEANの申し出を断り、ラナは一人で帰って行った。
部屋の中にはまだ、DEANのためにラナが作ってくれたチーズトーストの匂いが残っていた。ベッドの中のSAMの寝顔は、いつになく安らかに見えた。
DEANは突然、理由もなく泣きたくなった。
ずっとずっとこのままこの町にいたいと心の底から願って、柄にもなく、聖書を開いてお祈りをした。

「ラナ、ラナ…。兄ちゃん、ラナはどこ? どこに行っちゃったの?」
ちょうどDEANがベッドにはいろうとしたその時、SAMが目をさました。そして、半分寝ぼけてラナを探した。
「ラナは、帰っちゃったよ。だってSAMMY、いまはもう11時すぎだぞ」
「…兄ちゃん、明日もラナ、来てくれるの?」
「わかんねえなぁ…。来てほしいのか、SAMMY?」
SAMは、少し頬を紅潮させて、無言で頷いた。
「明日、ボクの作ったカード、ラナにあげるの。ママに作ったカード…」
「いいのか? お前、ママのお墓に持って行きたいんじゃなかったのか?」
「うん。でも、カンザスになんか、いつ行けるのかわかんないし。父ちゃん、このあとだって、どこに行くのかわかんないんでしょ? だから、ラナにあげる。今日、ボクのママになってくれたから…」
「おいおい、SAMMY、兄ちゃんを忘れてないか? 兄ちゃんがいっつも、お前のママのかわりになってやってんだろうが…。俺じゃ不満か? 買い物してご飯作って、洗濯だって俺だろ? ほ~ら、SAMMY坊や、ねんねのお時間よぉ!」
DEANが裏声を出しておどけてみせた。
「ダサい!ウザい!乱暴!それに兄ちゃんは、ラナみたいないい匂いがしないもん!」
「そりゃないだろ?」
「…胸もない…」
「そいつは、どうやったって無理だ。あきらめろ…」
「……お願い、兄ちゃん、今夜は一緒に寝さしてくれる?…」
「うん。…でも、胸、ないぞ…」
兄の返事を聞きもしないうちに、SAMはすばやくDEANのベッドにもぐりこみ、DEANの腕を枕がわりにして、DEANの胸に顔を押し付けた。そしてすっかり安心したのか、ほどなく小さな寝息をたて始めた。
「なあ、SAMMY、お前にはママがいないけど、俺がいるから…。いつも傍にいて、お前を守るから。約束する。だから、これからマザーズデーには、俺にカーネーションくれるか?」

すでに夢の世界に滑り込んだ弟に向かってジョークを言いながら、DEANは、そろそろと静かに身体を回して向きなおり、そして、SAMが赤ん坊だった頃と同じように、その身体をそっと両の腕で包み込んだ。
まるで、親鳥がまだ飛べない雛を抱きかかえるように、そっと…。
☆☆☆ The end ☆☆☆
♪ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
良かったら、感想も残してくださいね!
6 コメント:
maxyさん、こちらでもこんにちわ!
会社でお昼ご飯を食べながら、しかもニヤニヤしながら読んでました。でも時間がなくなっちゃって、最後まで読めず、やっと今きちんと読めました。
メタルTシャツご愛用のDEANがいいですね~。
いまどき、メタルのライヴでもいなかい限り、こういうTシャツ着ている人いないかもです。いや、本場のアメリカでは、よくは分かりませんが、少なくとも日本ではそうです。
それはそうと、小学生のSAMが、なんとも弱っちくて、でもその分微笑ましいです。
お兄ちゃんは強い子だから(笑)
ラナちゃんも、強い子ですね。知ってらっしゃると思いますが、強い女性は大好きです。
DEANが主導権奪われてて、笑ってしまいました。
あと、ワルっぽい描写の中坊DEAMがいい感じです。ウォークマンを手放さないとか、分かる~って感じで。
確かにDEAN、いい子すぎですかね。ははっ(笑)
Fanficもいろいろありますが、基本的に読むの大好きです。
では、次は、悪い子DEANとか(笑)
また次も期待してますね~。
maxyさん、少し遅れましたがブログの方読んでこちらに新しいFanficがアップしてると知り慌ててやってきました!!今回は兄弟の年齢もぐっと低くてすごく可愛い!!それに、私も父親不在で育ったので父の日には少し不自由した記憶があるので、母の日の兄弟やラナの気持ちがよく解りました。maxyさんの文章ですごく気に入った表現がありました。「嬉しさという水が満ちたプールの中で、怒りという塊が少しずつ解けて小さくなっていくような感じ」とても素敵ですよね!その時のDEANの気持ちをとてもわかり易く表していると思いました。私、結構小説も読むんですけど、maxyさんは、ほんとに才能豊かですね・・まるでプロの作品を読んでるよな気がしてますもの。ラストの兄弟が寄り添って眠るイラストにじわじわ感動が押し寄せてきました。
LICCA様。
読んでくださり、ありがとうございます。
それに、LICCAさんが反応してくれるポイントが、とってもツボ(笑)! 私自身、書いてて、この時代錯誤DEANがとっても愛おしいのです。
加えて私も、強くてしっかりした女の子が好き。DEANが、強い女の子にふりまわされるっていうシチュエーションが大好き!さらに、兄ちゃんに甘えまくる情けないSAMも、ツボ。
とにかくLICCAさんと私は、ツボが似てますよね~。同病(苦笑)。
次はぜひ、ワルDEANに挑戦してみたいと思いますが、DEANって根がいい子だから…。それにDEAN、決して強い子じゃないと思います。強くならざるをえなかった子…。このあたりのぜひ、考察してみたいです! Thanks a lot!
mika様。
慌てて来てくださったなんて、ありがとう!でも、走って転ばないでね!
mikaさんが気に入って下さった場所、どう表現したらいいか悪戦苦闘した場所です。なので、DEANの気持ちがわかる、っておっしゃっていただくと、とても嬉しいです。これからも、精進します!
寄り添いイラストは、私自身も、ほ~んとに大好きです!
ほんとに、いつも、ありがとうございます。
こんにちは!
何だか気恥ずかしくて、こちらになかなかコメントできなかったのですが…ついに初カキコです!
気がつけば、maxyさんとのコラボももう4作目になるのですね…。一作の中の話数ぶんも数えると、8〜9作目…でしょうか? 半年間でここまで書けてしまうなんて、maxyさんの生産能力の高さにはビックリです!しかもハイクオリティ…私のイラストは果たして釣り合いが取れているだろうかと、いつも凹みます(涙)。
しかも私個人の事情で作業に支障をきたしたりと(特に文章ファイルのやりとりで!)、ご迷惑ばかりおかけしてしまって、自分が情けないです。ここに全話分をお詫びいたします。
I'm really sorry...!
イラスト描かせていただいてる関係上、maxyさんのFanficを一番最初に読むという幸運に恵まれているわけですが、Dean&Samの心情が深く考察されていてまるで本編みたい…と、原稿が送られるたびにいつも感じています。
そこにmaxyさんのお人柄が感じられる温かい文章が加味されて、Dean&Samのみならず、読んだ私まで癒されてゆくようで、読後は必ずほんわかした気持ちになるのです。(その後は、期日までに送付しなければとアタフタしてしまい、ろくな感想も言えぬままで、いつもすみません!)
maxyさんのDeanは、粗雑な中にも私が本編のDeanに見出している「柔らかい部分」が滲み出してて、本当に素敵だと思います。たまにひどく大人な時もあって、ドキリとさせられますし。格好良くて優しい、Deanそのものですね!
Samは多分、maxyさんから見てもまだまだ子供って感じなのしょうね。そんなところがすごく可愛いですv でも、大事に育てられたがゆえの無鉄砲さとか、ちょっぴり皮肉屋な所がすっごくSamしてます!
2人とも素敵な造形をされてるので、イラスト描くときは思わず力が入ります。イメージ壊しちゃいかん…!みたいな。これでも毎回、緊張してるんですよ〜(笑)
あと、maxyさんの生み出す女性キャラは皆好きですv
一番のお気に入りは、未だにAngela!
人間形態をきちんと描いてあげられなかったのが、心残り。いつかひっそりと完成させたいです。
今回の兄弟もほんとにかわいくて、描いててすごく楽しかったです!
願わくば、皆様の想像の邪魔にだけはなりませんことを…。
キョウ様。
身に余るお言葉、正直、気恥ずかしいです。
マジで、これ、誰のことですか?って、聞き返したくなってしまいました(苦笑)。かいかぶってますよ~、キョウさん。
だって、私の第一稿はいつだって、誤字脱字余分な字、ミスタイプの嵐じゃないですか!? しかも、出すたびに直す…。
でも、コメントをいただき、うれしくてうれしくて、恥ずかしいといいながら、3度も読み返しちゃいました。
お話など作ろうとする私のような妄想人間にとっては、心底書きたいと思うテーマにめぐり会え、妄想を共有し愉しんでくださる読者にめぐり会えること以上の幸運はありません。なのにさらに加えて私は、大切な部分で響き合うことのできるコラボ作者にめぐり会うことができました。これは、本当に、宝くじ1等以上の幸運、強運(キョウ運?)だと思います。これからも、どうぞ、よろしくお願い致します。
「願わくば、皆様の想像の邪魔にだけはなりませんことを」だなんて、とんでもなしです。多分、そんなこと考えるの、キョウさんだけですよ。
だって私はもちろんのこと皆さんも、本物のSAM&DEANのみならず、キョウさんの描く二人のことが好きだと思います、絶対に!
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